最終確認日:2026年7月3日
はじめに
韓国企業から日本進出の相談を受ける際、最初に出てくる質問の一つが「日本法人を設立すべきか」という点です。
日本法人の設立は、日本市場での信用、採用、契約、銀行口座、許認可、顧客対応の面で有効な選択肢になり得ます。他方で、日本法人を設立すると、税務、会計、労務、社会保険、登記、維持管理、在留資格、許認可対応などの負担も生じます。
したがって、日本法人設立は「早ければ早いほどよい」というものではありません。日本進出の目的、事業段階、取引先、許認可、採用計画、在留資格、税務、資金計画に応じて、適切なタイミングと進出形態を選ぶことが重要です。
本記事では、韓国企業が日本進出を検討する際に、日本法人を設立すべきか、韓国法人を契約主体として進めるべきか、代理店・PoC・業務提携を活用すべきかについて、日本弁護士の視点から整理します。
日本進出全体の論点については、関連記事「韓国企業が日本進出する際にまず検討すべき法的論点」も併せてご参照ください。
1. 結論:日本法人設立は目的ではなく手段
結論として、韓国企業が日本進出を行う場合でも、必ずしも最初から日本法人を設立する必要はありません。
日本法人設立は重要な選択肢ですが、それ自体が目的ではなく、日本市場で事業を行うための一つの手段です。初期段階では、韓国法人のまま日本企業と面談し、NDAを締結し、PoCや業務提携を通じて市場検証を行うことも可能です。
もっとも、日本で反復継続的に取引を行う場合、日本で従業員を採用する場合、日本で許認可を取得する場合、日本国内の顧客に対して継続的にサービスを提供する場合、又は韓国人代表者・管理者が日本に常駐して経営を行う場合には、日本法人設立又は外国会社登記の必要性が高くなります。
2. 事業段階ごとの考え方
日本法人を設立すべきかどうかは、事業段階ごとに分けて検討するのが実務的です。
| 事業段階 | 想定される進め方 | 主な検討事項 |
|---|---|---|
| 市場調査・初期検証段階 | 韓国法人のまま、日本企業との面談、展示会・イベント参加、紹介者経由の商談、日本語資料による市場反応の確認を行う。 | NDA、簡単なMOU、日本語ピッチ資料、価格表、導入事例資料などを準備する。 |
| PoC・パイロット段階 | 韓国法人名義でPoC契約を締結し、日本企業とのテスト導入・実証実験を行うことも可能。 | 目的、期間、費用、KPI、データ利用、成果物、商用化判断時期を契約書に定める。 |
| 初期売上・反復取引段階 | 日本企業との反復取引、日本国内の顧客へのサポート、請求・決済、継続的な営業活動が発生する段階。 | 韓国法人のまま直接取引を続けるのか、日本代理店を活用するのか、日本法人設立を検討するのかを判断する。 |
| 代理店・販売パートナー活用段階 | 日本国内のネットワークを持つ代理店・販売店・業務提携先を通じて販売する段階。 | 独占権、KPI、最低販売数量、報告義務、顧客情報共有、商標・広告素材の使用、解除条件を設計する。 |
| 本格進出・現地運営段階 | 日本で採用、許認可取得、BtoC販売、顧客サポート、店舗展開、資金調達、補助金、M&A等を検討する段階。 | 日本法人設立の必要性が高くなる。税務、会計、労務、在留資格、許認可、契約構造を一体で設計する。 |
| 戦略提携・JV・投資・M&A段階 | 日本企業との合弁、資本業務提携、日本企業への出資、日本企業の買収を検討する段階。 | 出資比率、ガバナンス、拒否権、Exit、知的財産、データ、競業避止、外為法対応を検討する。 |
3. 日本進出形態の比較
韓国企業が日本市場に入る方法は、日本法人設立だけではありません。日本でどの程度の活動を行うのか、誰が契約主体になるのか、営業活動・売上計上・雇用・許認可の有無に応じて、複数の選択肢を比較する必要があります。
| 進出形態 | 主な内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 駐在員事務所・連絡事務所 | 市場調査、情報収集、連絡、物品購入、広告宣伝等の準備的・補助的活動を行う。 | 原則として営業活動・契約締結・売上計上はできない。通常、駐在員事務所名義で銀行口座開設や不動産賃貸借契約を行うことも困難である。 |
| 外国会社の日本支店 | 韓国法人の一部として日本で継続的に取引を行う。 | 外国会社登記、日本における代表者、韓国本社との責任関係、税務上の取扱いを確認する。 |
| 日本法人 | 株式会社・合同会社等を設立し、日本法人を契約主体として事業を行う。 | 信用、採用、許認可、銀行口座、契約実務で有利なことがある一方、税務・会計・労務・維持コストが発生する。 |
| 代理店・販売店 | 日本企業を通じて商品・サービスを販売する。 | 初期コストを抑えやすいが、独占権、顧客情報、広告責任、商標使用、解除条件の設計が重要。 |
| PoC・業務提携 | 日本企業と実証実験・共同事業を行う。 | 商用化条件、成果物・データ・知的財産の帰属を事前に定める。 |
4. 外国会社登記が問題となる場合
韓国法人が、日本に拠点を置いて、日本国内の取引先・顧客との契約締結、商品・サービスの販売、営業活動、請求・代金回収等を反復継続して行う場合には、会社法上の「外国会社」としての登記が必要となる可能性があります。
会社法上、外国会社が日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定める必要があり、その日本における代表者のうち一人以上は日本に住所を有する者でなければなりません。また、外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができません。さらに、外国会社が初めて日本における代表者を定めたときは、原則として、日本における代表者を定めた日から3週間以内に外国会社の登記を申請する必要があります(会社法第817条第1項、同法第818条第1項、同法第933条第1項)。
そのため、韓国法人のまま日本で事業を行う場合でも、「日本法人を作らないから登記手続は不要」と単純に考えることはできません。単なる市場調査や情報収集にとどまるのか、日本で継続的な営業活動・契約・販売を行うのかを慎重に確認する必要があります。
なお、これは外国会社が日本で継続的に取引を行う場合の「日本における代表者」に関する規律であり、日本で株式会社又は合同会社等の日本法人を設立する場合の代表取締役・代表社員の住所要件とは区別して検討する必要があります。
5. 経営・管理ビザとの関係
韓国企業が日本法人を設立する理由として、韓国人代表者、創業者、役員、管理者を日本に常駐させることがあります。この場合、会社設立だけでなく、在留資格「経営・管理」の取得可能性を検討する必要があります。
日本で貿易その他の事業の経営を行い、又は当該事業の管理に従事する活動については、在留資格「経営・管理」が問題となります(出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号、同法別表第一の二の表、出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令)。
2025年10月16日施行の改正により、在留資格「経営・管理」の許可基準は厳格化されています。改正後は、原則として、1人以上の常勤職員の雇用、3,000万円以上の資本金等、申請者又は常勤職員の相当程度の日本語能力、申請者の経歴・学歴、事業計画書の専門家確認等が重要になります。
したがって、「日本法人を設立すれば経営・管理ビザを取得できる」という理解は危険です。特にスタートアップの場合、日本法人設立と在留資格を同時に検討するのであれば、資本金、日本国内の事務所、常勤職員、事業計画、日本語対応、税務・社会保険、実際の経営活動まで一体として準備する必要があります。
なお、在留資格は、日本法人、支店、駐在員事務所といった進出形態だけで機械的に決まるものではなく、本人が日本で実際に行う活動内容に応じて判断されます。そのため、韓国本社から日本へ派遣される者については、「経営・管理」だけでなく、「企業内転勤」や「技術・人文知識・国際業務」等の在留資格も含めて、個別に検討する必要があります。
6. 日本法人設立を検討すべき典型場面
以下のような場合には、日本法人設立を本格的に検討すべきです。
- 日本企業との反復継続的な取引が見込まれる場合
- 日本国内で従業員を採用する必要がある場合
- 日本国内で許認可・届出を取得する必要がある場合
- BtoC事業、店舗、EC、サロン、スクール等を日本で直接運営する場合
- 日本国内の顧客へのサポート、保守、クレーム対応を継続的に行う場合
- 日本企業から、日本法人を契約主体とすることを求められる場合
- 日本国内で銀行口座、決済、補助金、資金調達を利用する必要がある場合
- 韓国人代表者・管理者が日本に常駐して事業を経営する場合
- 日本企業とのJV、資本業務提携、M&A、Exitを見据える場合
7. 日本法人を急いで設立しなくてもよい場面
一方で、以下のような段階では、必ずしも最初から日本法人を設立する必要はありません。
- 日本市場の反応を確認しているだけの段階
- 日本企業との初期面談・商談段階
- 展示会・イベント参加、紹介営業、ユーザーインタビューの段階
- PoC又はパイロットプロジェクトにとどまる段階
- 日本代理店又は販売パートナー経由でテスト販売を行う段階
- 売上規模が限定的で、日本での採用・許認可・常駐がまだ不要な段階
ただし、この場合でも、NDA、PoC契約、代理店契約、販売店契約、広告規制、個人情報、商標、準拠法・管轄等の確認は必要です。日本法人を設立しないことは、日本法対応が不要であることを意味しません。
特に、日本に拠点を置いて反復継続的に取引を行う場合には、日本法人を設立しない場合であっても、外国会社登記、税務上の恒久的施設(PE)、許認可、広告表示、個人情報保護等が問題となる可能性があります。そのため、「日本法人を設立するかどうか」と、「日本法・税務・許認可上の対応が必要かどうか」は、分けて検討する必要があります。
8. 日本法人設立前に確認すべき事項
日本法人を設立するかどうかを判断する前に、少なくとも以下の点を確認する必要があります。
| 項目 | 確認事項 |
|---|---|
| 契約主体 | 韓国本社、日本法人、日本支店、代理店のどこが契約当事者になるのか。 |
| 売上・請求・決済 | 日本国内の顧客への請求主体、代金回収、消費税、インボイス制度、送金ルートをどう設計するか。 |
| 許認可・届出 | 食品、化粧品、医療・美容、EC、人材、不動産等、業種ごとの許認可・届出が必要か。 |
| 雇用・労務 | 日本で従業員を採用する必要があるか。雇用契約、労働条件通知書、就業規則、社会保険に対応できるか。 |
| 在留資格 | 韓国人代表者・役員・管理者が日本に常駐する場合、経営・管理その他の在留資格が必要か。 |
| 税務・会計 | 日本法人又は日本支店を置く場合の法人税、消費税、源泉所得税、移転価格、親子会社間取引をどう整理するか。 |
| 知的財産・ブランド | 日本での商標登録、代理店による商標使用、広告素材・SNS・ECページの管理をどうするか。 |
| 外為法・投資規制 | 日本企業への出資、M&A、事業譲受、不動産取得等について外為法上の届出・報告が必要か。 |
まとめ
韓国企業の日本進出において、日本法人設立は非常に重要な選択肢ですが、最初から必ず必要になるわけではありません。
初期段階では、韓国法人のまま市場調査、商談、PoC、代理店活用、業務提携を進めることができます。もっとも、反復取引、日本での採用、許認可、日本国内の顧客サポート、資金調達、経営・管理ビザの必要性が具体化する段階では、日本法人設立を本格的に検討すべきです。
重要なのは、日本法人を設立するかどうかを形式的に決めることではなく、日本進出の事業段階、契約構造、許認可、税務、労務、在留資格、知的財産、資金計画を一体として設計することです。
日本法人設立は、早ければ早いほどよいものではなく、必要な時点で、必要な構造で行うことが重要です。特に経営・管理ビザが必要な場合には、単なる会社設立ではなく、実際に運営可能な日本事業を設計する必要があります。
主な参考資料・根拠法令
- 会社法第2条第2号、第817条第1項、第818条第1項、第933条第1項
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086 - 法務省「外国会社の登記を忘れていませんか?」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00275.html - JETRO「日本への進出形態」
https://www.jetro.go.jp/invest/setting_up/section1/page1.html - JETRO「日本での拠点設立方法 Q&A」
https://www.jetro.go.jp/invest/setting_up/qa.html - 出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号、別表第一の二の表
https://laws.e-gov.go.jp/law/326CO0000000319 - 出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令
https://laws.e-gov.go.jp/law/402M50000010016/ - 出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/businessmanager.html - 出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』に係る上陸基準省令等の改正について」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/10_00237.html - 出入国在留管理庁「『経営・管理』の許可基準の改正等について」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001448070.pdf - 国税庁「インボイス制度」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm - 国税庁「インボイス発行事業者登録申請手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_shinsei.htm
免責文
本記事は、韓国企業の日本進出及び日本法人設立に関する一般的な法的論点を整理したものであり、個別案件に対する法的助言を目的とするものではありません。実際の対応は、商品・サービスの内容、進出形態、契約スキーム、当事者の属性、許認可の要否、広告内容、データの取扱い、在留資格、投資額、対象会社の事業内容等により異なります。具体的な判断にあたっては、日本法、税務、会計、労務、ビザ、許認可、登記等の専門家に個別に相談する必要があります。また、韓国法に関する個別判断については、韓国弁護士・韓国会計士等との連携が必要です。
著者プロフィール
著者:弁護士 髙 芝元
弁護士法人 淀屋橋・山上合同所属。日本語・韓国語・英語に対応し、韓国企業の日本進出、日韓クロスボーダー契約、M&A、人事労務、ヘルスケア・美容・化粧品規制、広告表示規制等を取り扱う。USC Gould School of Law LL.M.修了。ニューヨーク州司法試験合格。2026年、韓国の法律事務所において研修・執務経験を有する。
韓国企業の日本進出・日本法人設立に関するご相談は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。