コラム
2026/07/02

韓国企業が日本進出する際にまず検討すべき法的論点

最終確認日:2026年7月2日

はじめに

韓国企業が日本市場に進出する場合、最初に検討すべきことは、単に「日本法人を設立するかどうか」だけではありません。

実務上は、①どのような形で日本に進出するのか、②日本企業との契約スキームをどう設計するのか、③日本国内で必要となる許認可・届出・表示規制は何か、④日本で人を雇用するのか、⑤商標・ブランド・ノウハウをどのように保護するのか、⑥日本の顧客情報を韓国本社と共有するのか、⑦外国人役員・駐在員・代表者の在留資格をどのように確保するのか、⑧出資・M&A・不動産取得に外為法上の届出・報告が必要か、といった点を、初期段階から横断的に確認する必要があります。

韓国で成功しているビジネスモデルであっても、日本では、会社法、入管法、労働法、食品衛生法、食品表示法、薬機法、医療法、景品表示法、個人情報保護法、特定商取引法、商標法、外為法その他の法令により、そのままの形では展開できない場合があります。

特に、外国人経営者が日本で事業を行う場合の在留資格「経営・管理」については、2025年10月16日施行の改正により、許可基準が厳格化されています。韓国企業が日本法人を設立し、韓国本社の役員・従業員を日本法人の代表者又は管理者として派遣する場合には、会社設立だけでなく、在留資格、事業所、資本金、常勤職員、事業計画、許認可、税務・社会保険の履行状況まで含めて検討する必要があります。

本記事では、日本進出を検討する韓国企業が、事業開始前に確認すべき主要な法的論点を、日本弁護士の視点から整理します。

1.検討すべき進出形態

韓国企業が日本で事業を行う場合、主な進出形態として、以下のような選択肢があります。

進出形態 概要 向いている場面
駐在員事務所・連絡事務所 市場調査、情報収集、連絡拠点として利用する形態 本格的な営業開始前の調査段階
外国会社の日本支店 韓国法人の一部として日本で継続的に取引を行う形態 韓国本社を契約主体として日本で事業を行う場合
日本法人 株式会社又は合同会社等を日本で設立する形態 日本で採用、契約、営業、資金調達、許認可取得を本格化する場合
代理店・販売店 日本企業を通じて商品・サービスを販売する形態 初期コストを抑えて日本販売を開始する場合
EC・越境EC 韓国本社又は日本法人がオンラインで日本の消費者に販売する形態 化粧品、食品、アパレル、雑貨、コンテンツ、SaaS等
店舗展開 日本で飲食店、小売店、美容サロン、スクール、ショールーム等を展開する形態 B2Cブランドを日本で直接展開する場合
PoC・業務提携 日本企業と実証実験又は共同事業を行う形態 B2B、SaaS、AI、ヘルスケア、製造業、DX関連等
JV・M&A 日本企業との合弁又は日本企業の買収により進出する形態 日本での事業基盤を早期に取得したい場合

韓国法人が、日本に拠点を置いて、日本国内の取引先・顧客との契約締結、商品・サービスの販売、営業活動、請求・代金回収等を反復継続して行う場合には、会社法上の「外国会社」としての登記が必要となる可能性があります。

会社法上、外国会社が日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定める必要があり、その日本における代表者のうち一人以上は日本に住所を有する者でなければなりません。また、外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができません。さらに、外国会社が初めて日本における代表者を定めたときは、原則として、日本における代表者を定めた日から3週間以内に外国会社の登記を申請する必要があります(会社法第817条第1項、同法第818条第1項、同法第933条第1項)。

そのため、韓国企業が日本で継続的に営業活動を行う場合には、単なる駐在員事務所・連絡事務所で足りるのか、外国会社として登記を行うべきか、又は日本法人を設立すべきかを、事業内容、契約主体、売上計上、雇用の有無、許認可の要否、税務上の取扱いとあわせて検討する必要があります。

2.日本法人設立と在留資格「経営・管理」の関係

韓国企業が日本法人を設立する場合、韓国本社の役員又は従業員を日本法人の代表取締役、代表社員、支店代表者、事業責任者等として日本に派遣することがあります。この場合、会社法上の会社設立手続だけでなく、当該外国人が日本に滞在して経営・管理活動を行うための在留資格も問題になります。

日本で貿易その他の事業の経営を行い、又は当該事業の管理に従事する活動については、在留資格「経営・管理」が問題となります(出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号、同法別表第一の二の表、出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令)。

2025年10月16日施行の改正により、在留資格「経営・管理」の許可基準は厳格化されています。改正後は、特に以下の点が重要になります。

項目 主な内容
常勤職員の雇用 申請者が営む会社等において、1人以上の常勤職員を雇用することが必要
資本金等 法人の場合、株式会社における払込済資本の額又は持分会社における出資の総額について、3,000万円以上の事業規模が必要
日本語能力 申請者又は常勤職員のいずれかが、相当程度の日本語能力を有することが必要
経歴・学歴 申請者が、経営管理又は申請に係る事業の業務に必要な分野に関する博士・修士・専門職学位を有すること、又は事業の経営又は管理について3年以上の経験を有することが必要
事業計画書 具体性、合理性、実現可能性について、経営に関する専門的知識を有する者による確認が必要
事業所 改正後の規模等に応じた経営活動を行うための事業所を確保する必要があり、自宅を事業所と兼ねることは原則として認められない
許認可 事業を営むために必要な許認可の取得状況等を証する資料の提出が求められる
公租公課等 更新時には、労働保険、社会保険、税金等の履行状況が確認される

この改正により、従前よりも、「会社を設立すれば足りる」という発想では対応が難しくなっています。日本進出にあたって韓国人経営者・役員・管理者の駐在を予定する場合には、会社設立、資本金、事業所、雇用計画、事業計画、許認可、税務・社会保険、在留資格を一体として検討する必要があります。

特に、飲食店、小売店、美容サロン、スクール、フランチャイズ、EC事業、貿易業、コンサルティング業、SaaS事業、化粧品・食品・医療関連事業など、代表者が日本に常駐して事業を管理する必要がある場合には、在留資格「経営・管理」の取得可能性を初期段階で確認することが重要です。

なお、「経営・管理」は、一般に「経営管理ビザ」と呼ばれることもありますが、実務上は、出入国管理及び難民認定法上の在留資格として、その活動内容、上陸許可基準、申請資料、更新時の実績確認を検討する必要があります。

3.契約スキームの整理

日本進出においては、どのような契約スキームで日本市場に入るのかを最初に整理する必要があります。

韓国企業が日本市場に進出する際に問題となる契約としては、例えば以下のようなものがあります。

  • NDA
  • 販売代理店契約
  • 販売店契約
  • 総代理店契約
  • 輸入販売契約
  • OEM契約
  • 製造委託契約
  • フランチャイズ契約
  • 店舗賃貸借契約
  • 業務提携契約
  • PoC契約
  • 共同開発契約
  • ライセンス契約
  • SaaS利用規約
  • EC利用規約
  • 個人情報処理委託契約
  • 株式譲渡契約
  • 事業譲渡契約
  • JV契約

たとえば、韓国の食品・化粧品・雑貨・アパレルブランドが日本企業に販売を任せる場合には、単に「日本総代理店」と呼ぶだけでは足りません。契約上は、当該日本企業が、代理人として契約を媒介するのか、商品を買い取って自己の責任で再販売するのか、輸入者になるのか、在庫リスクを負うのか、広告表示の責任を負うのか、商標を使用する権限を有するのかを明確にする必要があります。

また、日本企業とPoCを行う場合には、目的、期間、費用、成果物、データ利用、知的財産権、本契約への移行条件を明確にしなければ、PoC終了後に成果物の帰属や商用利用をめぐって紛争になる可能性があります。

契約書では、少なくとも以下の点を確認すべきです。

項目 確認事項
契約主体 韓国本社、日本法人、日本支店、日本代理店のどこが契約するのか
取引形態 売買、代理、委託、ライセンス、共同開発、業務提携のいずれか
独占権 日本市場での独占販売権を付与するのか
KPI 最低購入数量、販売目標、マーケティング義務を定めるか
広告責任 LP、SNS、広告、口コミ、PR表示の管理責任を誰が負うか
知的財産 商標、著作物、ノウハウ、データ、成果物の帰属をどう定めるか
規制対応 輸入、表示、許認可、届出、広告審査を誰が行うか
解除 販売不振、規制違反、ブランド毀損、支払遅延時に解除できるか
紛争対応 準拠法、裁判管轄、仲裁、優先言語をどう定めるか

日本法上、契約一般については民法の規律が適用されます。売買契約であれば民法第555条以下、請負契約であれば同法第632条以下、委任契約であれば同法第643条以下、準委任契約であれば同法第656条等が問題となります。個別の契約名称だけでなく、実際の取引内容に応じて、どの法的性質を有する契約なのかを検討する必要があります。

4.業種ごとの許認可・届出・規制の確認

韓国企業の日本進出では、業種によって必要となる許認可・届出・規制が大きく異なります。特に、飲食、食品、化粧品、健康食品、医療・美容、EC、小売、教育、フランチャイズ、不動産、SaaS、人材関連事業では、進出前の規制確認が重要です。

以下の表では、法令そのものと、法令以外の実務確認事項が混在しないよう、左側に主に確認すべき法令・制度を、右側に併せて確認すべき実務事項を整理しています。

業種・事業 主に確認すべき法令・制度 併せて確認すべき実務事項
飲食店・カフェ・レストラン 食品衛生法、食品表示法、消防法、建築基準法、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、労働基準法、労働契約法、景品表示法 店舗物件、用途、厨房設備、食品衛生責任者、営業許可、消防対応、雇用体制、メニュー表示、アレルゲン表示
韓国食品の輸入販売 食品衛生法、食品表示法、関税法、植物防疫法、家畜伝染病予防法、景品表示法、健康増進法、特定商取引法 輸入者、成分・原材料、検疫、食品表示、アレルゲン、賞味期限、EC表示、物流・保管体制
化粧品・美容商品 薬機法、化粧品基準、景品表示法、商標法、特定商取引法、令和5年内閣府告示第19号 製造販売業者、輸入者、成分、パッケージ表示、LP、SNS広告、インフルエンサー投稿、商標登録
健康食品・サプリメント 食品衛生法、食品表示法、健康増進法、薬機法、景品表示法、特定商取引法、令和5年内閣府告示第19号 商品分類、原材料、機能性表示の有無、広告表現、LP、口コミ、定期購入表示
美容機器・医療機器 薬機法、景品表示法、特定商取引法、商標法 医療機器該当性、使用目的、仕様書、広告表現、販売先、輸入者、保守体制
美容医療・クリニック関連 医療法、医師法、薬機法、個人情報保護法、景品表示法、医療広告ガイドライン 医療機関との役割分担、広告内容、症例写真、自由診療表示、患者情報、同意書、未承認医薬品・医療機器
美容サロン・エステ 医師法、薬機法、景品表示法、特定商取引法、消費者契約法、個人情報保護法 施術内容、医療行為該当性、機器、コース契約、解約・返金、広告表示、店舗物件
EC・D2C 特定商取引法、景品表示法、消費者契約法、個人情報保護法、電子消費者契約法、資金決済法 販売条件、返品条件、定期購入表示、プライバシーポリシー、決済方法、利用規約、レビュー表示
SaaS・アプリ 民法、個人情報保護法、電気通信事業法、消費者契約法、著作権法、特定商取引法、薬機法 利用規約、SLA、データ保管、越境移転、障害対応、責任制限、医療・健康機能の有無
フランチャイズ 独占禁止法、中小小売商業振興法、商標法、不正競争防止法、民法 加盟契約、情報開示、ロイヤルティ、商標使用、マニュアル、競業避止、解約条件
不動産取得・店舗展開 民法、不動産登記法、宅地建物取引業法、借地借家法、外為法、都市計画法、建築基準法、消防法 物件調査、重要事項説明、用途地域、賃貸借契約、内装工事、原状回復、登記、送金、税務
M&A・投資 会社法、金融商品取引法、外為法、独占禁止法、労働基準法、労働契約法、個人情報保護法、各業法 法務DD、株式譲渡契約、表明保証、許認可承継、従業員対応、PMI、クロージング条件
人材紹介・求人関連サービス 職業安定法、労働基準法、個人情報保護法、景品表示法 有料職業紹介の許可、募集情報提供、求人広告、個人情報、成果報酬、インフルエンサー施策

たとえば、日本で飲食店を営業する場合、食品衛生法第55条第1項に基づく営業許可が問題となります。また、営業届出の対象となる営業については、食品衛生法第57条第1項に基づく届出が問題となります。飲食店、カフェ、韓国料理店、ベーカリー、デリ、食品小売、食品EC等を行う場合には、店舗ごとの設備、食品衛生責任者、保健所対応、営業許可・届出、表示、アレルゲン、輸入食品の取扱いを確認する必要があります。

ECで日本の消費者に商品・サービスを販売する場合には、特定商取引法上の通信販売規制が問題となります。通信販売については、広告に表示すべき事項が定められており、誇大広告等も禁止されています(特定商取引法第11条、第12条)。販売価格、送料、支払時期、引渡時期、返品条件、事業者情報等を適切に表示する必要があります。

5.広告・表示規制の確認

日本進出において、広告・表示規制は、業種を問わず重要です。特に、韓国企業が日本向けにSNS、インフルエンサー、LP、ECサイト、比較広告、口コミ、レビュー、動画広告、キャンペーン表示を行う場合には、広告全体の印象を含めて確認する必要があります。

日本では、景品表示法第5条により、商品・サービスの品質、規格、内容、価格、取引条件等について、一般消費者に誤認を与える不当表示が規制されています。具体的には、優良誤認表示、有利誤認表示、その他内閣総理大臣が指定する表示が問題となります。

また、ステルスマーケティングについては、景品表示法第5条第3号に基づき、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が不当表示として指定されています。韓国企業が日本でインフルエンサー施策、レビュー施策、SNS投稿依頼、アフィリエイト広告を行う場合には、広告主としての関与、PR表示の有無、投稿内容の管理方法を確認する必要があります。

化粧品、医薬部外品、医療機器、美容機器、健康食品等については、薬機法上の広告規制も問題になります。薬機法第66条第1項は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品について、名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布することを禁止しています。韓国で一般的に使われている効能表現であっても、日本では使用できない場合があります。

美容医療、クリニック、医療機関との提携、医療観光、医師監修表示等が関係する場合には、医療法上の医療広告規制も確認する必要があります。医療法第6条の5は、医業、歯科医業、病院又は診療所に関する広告について規律しており、医療広告ガイドラインでは、ウェブサイト、症例写真、体験談、自由診療、未承認医薬品・医療機器等に関する表示の考え方が整理されています。

6.労務・人事管理の確認

韓国企業が日本で従業員を雇用する場合、日本の労働法に基づいた雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、労働時間管理、残業代管理、社会保険・労働保険対応が必要になります。

特に、韓国本社の雇用契約書や人事制度をそのまま日本法人・日本支店に導入することは避けるべきです。日本では、労働条件の明示、労働時間、休憩、休日、時間外労働、割増賃金、解雇・退職勧奨、就業規則、ハラスメント対応等について、独自の法規制と実務があります。

主に確認すべき事項は以下のとおりです。

項目 確認事項
雇用契約 労働条件通知書・雇用契約書を日本法に合わせているか
労働時間 実労働時間、休憩、休日、時間外労働を管理しているか
残業代 固定残業代を導入する場合、通常賃金部分と残業代部分が明確か
就業規則 常時10人以上の労働者を使用する場合、就業規則の作成・届出が必要か
社会保険 健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険への加入が必要か
解雇 普通解雇・懲戒解雇・退職勧奨を日本法上適切に行えるか
駐在員 韓国本社からの出向・転籍・兼務の取扱いを整理しているか

労働条件の明示については、労働基準法第15条が問題となります。また、就業規則については、常時10人以上の労働者を使用する使用者に作成・届出義務が課されています(労働基準法第89条)。解雇については、労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は権利濫用として無効となります。

7.知的財産・ブランド保護

韓国企業が日本で商品・サービスを展開する場合、商標、ロゴ、商品名、ブランド名、サービス名、キャラクター、パッケージ、広告素材、ノウハウ、ソフトウェア等の知的財産をどのように保護するかを検討する必要があります。

特に、商標については、韓国で商標登録をしていても、日本で当然に保護されるわけではありません。日本でブランドを展開する場合には、日本での商標調査・商標出願を検討する必要があります。

商標法第25条は、商標権者が指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有すると定めています。また、同法第37条第1号は、指定商品・指定役務についての類似商標の使用等を商標権侵害とみなす行為として定めています。

韓国企業が日本販売を代理店に任せる場合には、以下の点を確認すべきです。

  • 日本で同一又は類似の商標が既に登録されていないか
  • 日本代理店が商標を先に出願するリスクはないか
  • 韓国本社が日本商標を保有するのか、代理店に使用許諾するのか
  • 契約終了後、代理店が商標・ロゴ・広告素材を使用し続けないか
  • 模倣品、並行輸入品、非正規販売への対応をどうするか
  • 商品名・ブランド名だけでなく、シリーズ名・ロゴ・店舗名も保護すべきか

8.個人情報・データ移転

韓国企業が日本で顧客情報、従業員情報、予約情報、購買履歴、医療・美容関連情報、アプリ利用者情報を取得する場合には、個人情報保護法の確認が必要です。

特に、以下のような場面では注意が必要です。

  • 日本法人が取得した顧客情報を韓国本社に共有する場合
  • 日本向けECサイトの顧客情報を韓国サーバーで管理する場合
  • 日本の従業員情報を韓国本社が閲覧する場合
  • 韓国本社が日本向けCRM、予約システム、アプリ、SaaSを運営する場合
  • 医療、美容、健康、位置情報、顔写真等のセンシティブな情報を扱う場合
  • 日本の消費者向けに会員登録、メルマガ、ポイント制度を導入する場合

外国にある第三者に個人データを提供する場合には、個人情報保護法第28条が問題となります。たとえば、日本法人が韓国本社に個人データを提供する場合、韓国本社が同一グループ会社であっても、日本法人とは別法人である以上、「第三者提供」として整理する必要が生じる場合があります。

そのため、韓国本社と日本法人・日本支店との間でデータを共有する場合には、本人同意、委託、共同利用、プライバシーポリシー、データ処理契約、アクセス権限、保存場所、セキュリティ措置を確認する必要があります。

9.外為法・投資規制・送金

韓国企業が日本法人を設立する場合、日本企業に出資する場合、日本企業を買収する場合、日本不動産を取得する場合には、外為法上の届出・報告の要否を確認する必要があります。

特に、日本企業の株式取得、事業譲受、議決権取得、役員派遣、重要な事業資産の取得等が関係する場合には、対内直接投資等に該当するか、事前届出又は事後報告が必要かを検討する必要があります。対内直接投資等については、外為法第26条以下、とりわけ事前届出に関する同法第27条が問題となります。

外為法対応は、投資額だけで判断できるものではありません。対象会社の事業内容、指定業種・コア業種該当性、取得する議決権割合、投資家属性、経営関与の有無、免除制度の適用可能性等を確認する必要があります。

10.日本企業との交渉で問題になりやすい点

韓国企業と日本企業との交渉では、法制度だけでなく、契約文化や意思決定プロセスの違いも問題になります。

実務上、よく問題となるのは以下の点です。

  • 日本企業の社内稟議・承認に時間がかかる
  • 契約書の細かな修正が多い
  • 責任制限、解除、損害賠償、知財帰属について慎重な交渉が行われる
  • 口頭合意よりも文書化が重視される
  • PoC後に当然に本契約へ移行するとは限らない
  • 担当者が前向きでも、法務、経理、役員承認で止まることがある
  • 価格だけでなく、品質管理、サポート体制、継続供給、クレーム対応が重視される
  • 広告、表示、個人情報、反社、コンプライアンス条項について確認が求められる

そのため、韓国企業としては、日本企業との交渉前に、契約書、見積書、事業計画、体制図、規制対応資料、商標資料、FAQ、責任分担表を準備しておくことが有用です。

特に、飲食、食品、化粧品、健康食品、美容、医療、EC、小売、SaaS、フランチャイズ、M&A、不動産などの分野では、日本企業側の社内承認において、法務・規制・ブランド毀損リスクが重視されることがあります。

11.韓国企業が準備すべき資料

日本進出を検討する段階で、少なくとも以下の資料を準備しておくと、法務確認がスムーズになります。

分野 準備すべき資料
会社情報 会社概要、登記情報、株主構成、代表者情報
事業内容 日本で提供する商品・サービスの説明資料
進出形態 日本法人、支店、代理店、店舗、EC、M&A等の想定スキーム
在留資格 日本に派遣予定の役員・管理者の職歴、学歴、日本語能力、駐在予定
契約 NDA、代理店契約、業務提携契約、PoC契約、利用規約案
規制 商品成分、仕様書、許認可状況、海外認証、使用目的
広告 LP、SNS投稿、広告文、インフルエンサー投稿案
店舗 物件資料、賃貸借契約案、用途、内装計画、許認可要否
知財 商標登録状況、ロゴ、商品名、著作物、ソフトウェア
労務 採用予定、雇用契約案、給与体系、勤務場所
データ 取得する個人情報、保存場所、韓国本社との共有有無
税務・送金 投資額、資金移動、売上回収方法、送金ルート
紛争対応 準拠法、裁判管轄、仲裁、優先言語

12.専門家ネットワークの構築

韓国企業の日本進出は、日本法務だけで完結するものではありません。実際には、会社設立、登記、税務、会計、在留資格、許認可、労務、社会保険、不動産、商標、金融機関対応など、複数の専門領域が関係します。

そのため、日本進出を円滑に進めるためには、日本弁護士だけでなく、必要に応じて、韓国語対応可能な税理士、公認会計士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁理士、不動産会社、金融機関等と連携できる体制を整えることが重要です。

たとえば、韓国企業の日本進出では、以下のような専門家との連携が問題となることがあります。

専門家 主な役割
税理士・公認会計士 日本法人設立後の税務、会計、消費税、源泉所得税、移転価格、親子会社間取引、決算対応、インボイス制度
司法書士 日本法人設立登記、役員変更登記、外国会社登記、不動産登記、商業登記手続
行政書士 在留資格、経営・管理、営業許可、各種許認可・届出手続
社会保険労務士 社会保険、労働保険、給与計算、就業規則、労務管理体制
弁理士 商標出願、特許・意匠、ブランド保護、知的財産戦略
不動産会社・宅地建物取引士 店舗、事務所、倉庫、クリニック、サロン等の物件選定・賃貸借・売買
金融機関・決済事業者 法人口座、送金、決済、資金管理、為替対応

特に、韓国企業の場合、日本語での手続、専門用語、行政対応が負担となることが少なくありません。そのため、韓国語又は韓国企業対応に理解のある専門家と連携できるかどうかは、日本進出のスピードと実務上の安定性に大きく影響します。

当職は、日本弁護士として、日本法上の契約、規制、労務、M&A、紛争予防等を中心に対応するとともに、必要に応じて、韓国語対応可能な税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁理士等の専門家と連携しながら、韓国企業の日本進出を支援しています。

もっとも、税務、登記、在留資格、許認可、社会保険、知的財産出願等については、それぞれの専門家による個別判断が必要となる場合があります。そのため、日本進出を検討する段階では、早期に関係専門家を含めた体制を構築し、事業スキーム全体を整理しておくことが重要です。

13.日本弁護士に相談すべきタイミング

日本法務の確認は、問題が発生した後ではなく、以下のタイミングで行うことが望ましいです。

  • 日本企業とのNDA締結前
  • 日本代理店・販売店との契約前
  • 日本向け広告・LP・SNS投稿の公開前
  • 日本でのテスト販売前
  • PoC契約締結前
  • 日本法人・日本支店設置前
  • 在留資格「経営・管理」を前提に日本派遣を検討する段階
  • 日本で店舗物件を契約する前
  • 日本で飲食店・小売店・美容サロン等を開業する前
  • 日本で従業員を採用する前
  • 日本企業への出資・M&Aを検討する段階
  • 日本で個人情報を取得し、韓国本社と共有する前
  • 紛争・クレームが発生した直後

特に、許認可、在留資格、広告表示、個人情報、労務、商標、外為法、店舗賃貸借、M&Aについては、事後対応よりも事前設計の方が重要です。

まとめ

韓国企業が日本進出を行う際には、進出形態、契約、許認可、広告、労務、知的財産、個人情報、在留資格、外為法、税務、紛争対応を横断的に検討する必要があります。

日本市場は、韓国企業にとって魅力的な市場である一方、法規制、契約実務、広告審査、労務管理、行政手続、意思決定プロセスが韓国とは異なる部分も多くあります。韓国で成功したビジネスモデルであっても、日本では、飲食、食品、化粧品、健康食品、美容、医療、EC、小売、SaaS、不動産、M&Aなど、業種ごとに異なる法的確認が必要になります。

また、近時は在留資格「経営・管理」の基準が厳格化されているため、韓国人経営者・役員・管理者を日本に派遣する場合には、会社設立、資本金、常勤職員、事業所、事業計画、許認可、税務・社会保険対応を含めて、早い段階で検討する必要があります。

日本進出を検討する韓国企業は、日本企業との交渉や販売開始に先立ち、日本法務、税務、会計、労務、在留資格、許認可、登記、知的財産等の専門家と連携し、事業スキーム全体を整理することが重要です。当職は、日本弁護士としての法務対応に加え、必要に応じて、韓国語対応可能な税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁理士等と連携しながら、韓国企業の日本進出を支援しています。

チェックリスト:韓国企業の日本進出前に確認すべき事項

項目 確認事項
進出形態 日本法人、支店、駐在員事務所、代理店、EC、店舗、PoC、M&Aのどれか
契約主体 韓国本社、日本法人、日本支店、日本代理店のどこが契約するか
在留資格 韓国人経営者・役員・管理者の経営・管理ビザの要否を確認したか
資本金・雇用 経営・管理の基準との関係で、資本金、常勤職員、事業所を検討したか
店舗・物件 飲食、小売、美容、スクール等の場合、用途・許認可・賃貸借を確認したか
販売スキーム 輸入者、販売者、広告主、在庫責任者は誰か
許認可 業法上の許認可・届出・登録が必要か
広告 薬機法、景表法、医療広告、ステマ規制、特商法に抵触しないか
労務 日本法に合った雇用契約・就業規則・労働時間管理になっているか
知財 日本で商標登録・ライセンス管理ができているか
個人情報 韓国本社とのデータ共有、越境移転、同意取得を整理しているか
外為法 出資、M&A、不動産取得に関する届出・報告の要否を確認したか
専門家連携 税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁理士等との連携体制を確認したか
紛争対応 準拠法、管轄、仲裁、優先言語を契約で定めているか

主な参考資料・根拠法令

免責文

本記事は、韓国企業の日本進出に関する一般的な法的論点を整理したものであり、個別案件に対する法的助言を目的とするものではありません。実際の対応は、商品・サービスの内容、進出形態、契約スキーム、当事者の属性、許認可の要否、広告内容、データの取扱い、在留資格、投資額、対象会社の事業内容等により異なります。具体的な判断にあたっては、日本法、税務、会計、労務、ビザ、許認可等の専門家に個別に相談する必要があります。また、韓国法に関する個別判断については、韓国弁護士・韓国会計士等との連携が必要です。

著者プロフィール

著者:弁護士 髙 芝元

弁護士法人 淀屋橋・山上合同所属。日本語・韓国語・英語に対応し、韓国企業の日本進出、日韓クロスボーダー契約、M&A、人事労務、ヘルスケア・美容・化粧品規制、広告表示規制等を取り扱う。USC Gould School of Law LL.M.修了。ニューヨーク州司法試験合格。2026年、韓国の法律事務所において研修・執務経験を有する。

韓国企業の日本進出に関するご相談は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

© 弁護士 髙 芝元(弁護士法人 淀屋橋・山上合同 所属)